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東京地方裁判所 平成7年(行ウ)51号 判決

主文

一  被告見山吉史は、東京都に対し、金八〇万五六〇〇円及びこれに対する平成七年三月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  原告の請求

被告らは、東京都に対し、連帯して、金四六六万三一九六円及びこれに対する平成七年三月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要等

一  本件は、平成六年五月に東京都(以下「都」という。)が主催し、被告らがその職員として財務会計行為を行った第九三回関東甲信越監査委員協議会(以下、右協議会に係る行事の全体を「本件協議会」と総称する。)につき、都の住民である原告が、本件協議会は華美にすぎ、これに対する公金の支出には社会通念を逸脱した違法があるとして都監査委員に監査請求をしたところ、右監査請求を棄却されたために、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づいて提起した住民訴訟である。

二  当事者間に争いのない事実等(なお、書証によって認定した事実については、適宜書証番号を掲記する。)

1 当事者

(一) 原告は、都の住民である。

(二) 平成六年五月ころ、被告見山吉史(以下「被告見山」という。)は都監査事務局長の、被告鹿島博之(以下「被告鹿島」という。)は同局総務課長の職にあった。

2 本件協議会の概要

平成六年五月一八、一九日の両日、都の主催で本件協議会が開催され、都の外、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、神奈川県、新潟県、山梨県及び長野県から監査委員及び監査事務局員がそれぞれ出席した。その開催要領及び出席者数は別紙一のとおりであり、一八日午前一〇時から監査事務局長会(以下「局長会」という。)、同日午後二時三〇分から委員協議会、同日午後六時から委員協議会の一環として懇親会(以下「本件懇親会」という。また、以下単に「委員協議会」というときは本件懇親会を含まないものとする。)がそれぞれ京王プラザホテル(株式会社京王プラザホテルの経営に係り、新宿区西新宿二丁目二番一号に所在する。以下「本件ホテル」という。)で開催され、参加者のうち都職員を含めた六七名が本件ホテルに宿泊し、一九日には船の科学館等の視察が行われた。

なお、関東甲信越監査委員協議会は、前記都県により昭和二三年一〇月に結成され、以来、一都九県の輪番制により、原則として春、秋の年二回実施され、開催方法については、本件協議会と同じく、第一日目に局長会及び委員協議会を行い、第二日目に視察を行うというスケジュールで実施してきている。

3 予算措置

本件協議会の開催に要する所要経費については、平成六年度予算の一般会計において四八九万三〇〇〇円が計上された。その内訳は、(款)総務費、(項)監査委員費、(目)委員費より、会議、懇親会の運営に関する経費に支出する(節)一般需用費として三四九万一〇〇〇円、会場借上げ等に支出する(節)使用料及賃借料として一四〇万二〇〇〇円であった。

4 本件協議会に係る経費の支出手続

(一) 本件ホテル関係

本件ホテルとの契約は、地方自治法施行令一六七条の二第一項二号に基づく随意契約の方法で、東京都監査委員の所掌に係る事項に関する契約の委任等に関する規則(昭和四六年三月三〇日規則第六三号)一条四号による権限の委任を受けた都監査事務局長として被告見山が締結した。右契約に係る支出命令は、平成六年七月二一日、別紙二の一と同内容の見積書を添付して、東京都会計事務規則(昭和三九年三月三一日規則第八八号)六条一項一号により権限の委任を受けた都監査事務局総務課長として被告鹿島が行った。

(二) バスの借上げ関係

視察の際に本件ホテルから東京駅まで運行されたバス二台の財団法人東京都交通局協力会からの借上げについては、東京都自動車の管理等に関する規則(昭和三九年三月三一日規則第九二号)により契約の主管課となる都財務局経理部輸送課に対して契約依頼を行い、平成六年六月一日、都監査事務局長として被告見山が東京都予算事務規則一八条二項により都財務局長に対して歳出予算の執行委任を行った。

(三) 視察関係

財団法人日本海事科学振興財団の運営に係る船の科学館の入館料及び昼食費については、現金により直接支払を要するものであったことから、平成六年五月一八日、都監査事務局総務課長として被告鹿島が、東京都会計事務規則七六条一項二四号及び二六号により資金前渡を受け、同月一九日現金で直接支払をした。なお、新東京丸による視察については、同船が都港湾局所有に係るものであることから、3の予算措置からの支出はない。

(四) 記念品関係

本件協議会において記念品として参加者に配布されたペンダント(商品名メトルマーブル、以下「本件記念品」という。)については、販売元である東京都福利厚生事業団から現金で直接支払って欲しいとの要望があったことから、平成六年五月二七日、都監査事務局総務課長として被告鹿島が、東京都会計事務規則七六条一項二四号及び二六号により資金前渡を受け、同日現金で直接支払をした。

5 本件訴訟の経緯

(一) 原告の監査請求

原告は、平成七年一月六日付けで、本件協議会に係る費用四七一万三五九六円(「懇親会の費用二七七万六六七〇円」、「会議の会場借り上げ料一三一万九七〇〇円」、「東京湾遊覧視察費用・船の科学館入場料四〇万一二二六円」及び「記念品『ペンダント』費用二一万六〇〇〇円」の合計額)の支出は社会通念を逸脱して違法であるとして、被告両名に右支出分の都への返還を求める監査請求を都監査委員に対して行った。都監査委員は、都監査事務局の説明に従い、本件協議会に係る費用の内訳については概ね別紙二の一及び同二の二のとおりであるが、料理の代金(別紙二の一1ないし3)の中にコンパニオンに係る費用三〇万円が含まれ、会場使用料(同15)には局長会、委員協議会及び本件懇親会の会場使用料の外ハープ演奏料一二万円、司会料一〇万円、カラオケセット料金八万円及び記念品代一一万円が含まれていると認定し、局長会を本件ホテルで開催した点、及びコンパニオンに係る費用を料理の代金に、その余の各費用を会場使用料にそれぞれ含めて支出した点等について適切さを欠くとしたものの、なお違法又は不当とまではいえないとして、同年三月七日付けで右監査請求を棄却した。

(二) 本訴における被告両名の主張の変更

原告は、(一)に係る監査結果を不服として本訴を提起したが、被告両名は、平成八年一月三一日の第六回口頭弁論期日に至るまで、都監査委員の認定と同様の主張をしていた。しかし、原告が、内部告発によれば、懇親会に係る料理の種類、数量、単価等は右と異なるはずである旨主張したことなどから、都監査委員は、平成八年一月五日から同年二月一四日までの間、都監査事務局による本件協議会を含む会議開催経費の執行状況等について調査を行った。都監査委員は、同月一五日付けで、別紙二の一記載の各支出のうち、会場使用料について更に三四万五三〇五円、飲食費について更に六三万八五九五円の合計九八万三九〇〇円が各水増し計上されており、そのうち六三万二六三五円が都監査事務局職員を含む本件協議会出席者の本件ホテルへの宿泊料一四三万二六三五円中各県の分担金八〇万円(幹部一人当たり一万五〇〇〇円(三八人分)及び職員一人当たり一万円(二三人分)の合計額)によって賄えない部分に充当され、その余の三五万一二六五円及び都監査事務局職員等に支給されていた旅費のうち宿泊料及び日当の一四万二六〇〇円(その内訳は、別紙三のとおりである。)の合計四九万三八六五円が組織の運営費として捻出されていたなどとする調査結果を公表した。そこで、被告両名は、平成八年五月八日の第七回口頭弁論期日において、右調査結果に基づき、4(一)に係る部分の主張を別紙四のとおりに変更した。

なお、原告は、右のような被告両名の主張の変更に伴い、本件協議会に係る支出のうち、都職員の本件ホテルへの宿泊に係る支出分一四万二六〇〇円について、訴えを取り下げた。

(三) 本件協議会に係る費用の一部の都への返還

前記調査結果を受けて、(二)の運営費四九万三八六五円は平成八年二月一四日、本件ホテルへの宿泊料の支出のうち電話、冷蔵庫内飲料等の費用一四万八六三五円は同年三月二八日、それぞれ都に返還され、本件ホテル宿泊料への支出は四八万四〇〇〇円となった。

6 本件協議会に係る支出の内訳(平成八年五月八日付け原告準備書面参照)

本件協議会に係る支出の内訳は、会場、本件懇親会等経費(別紙四、4(一)に係る部分)、宿泊経費負担分残金(5(三)に係る部分)及び視察関係経費及び本件記念品経費(別紙二の二、4(二)ないし(四)に係る部分)のとおりである。

第三  争点に係る当事者の主張

本件の争点は、被告らによる本件協議会に係る違法な公金の支出によって都に損害が生じたか否かの点であるところ、これに関する当事者双方の主張の要旨は、以下のとおりである。

一  原告の主張

1 局長会及び委員協議会に係る支出の違法性

委員協議会の所要時間は一時間半にすぎず、その議事録も作成していなかったし、都庁舎内の特別会議室も、机は固定されていたが椅子は固定されていなかった(その配置は、別紙五の図面のとおりである。)。しかも、同会議室のロの字型に配置されたテーブル(三四席)及び入り口から二列目(一二席)にはマイクがセットされており、演壇は不要であるから、各都県から三名ずつの監査委員をロの字型に配置されたテーブルに割り振れば委員協議会の運営には何らの支障もなかったはずである。よって、委員協議会の開催のために本件ホテルの会場を借り受ける必要はなかったが、被告両名は、当初から、監査委員の意見交換等ではなく大規模な裏金作りを本件協議会の目的としていたため、ただの見栄、見場から深く考慮せずに委員協議会の会場を八か国語同時通訳放送装置まで完備した本件ホテル内のコンコードの間とし、同様の理由から、本件ホテルと都庁舎とが至近距離にあり、本件協議会当日にも都庁舎内には使用可能な会議室が存在していたにもかかわらず、その使用を検討しないまま局長会の会場も本件ホテルとした(別紙四の番号8の一部)。

また、関東甲信越監査委員協議会は毎年二回開催される定例会であり、参加者も公務としての参加なのであるから、その記念撮影代を参加者の自費負担とせず、公費で賄う必要はないし(別紙四の番号21)、六万五〇〇〇円もする派手な吊り看板も必要ない(同番号11)。

したがって、局長会及び委員協議会に係る支出は違法である。

2 本件懇親会に係る支出の違法性

本件懇親会は、派手な見栄、見場を追求するために行われたただのパーティーであり、コンパニオンに聞かれても構わないような世間話を交わすだけで、各都県相互の意見交換の場などではないから、これに公費を支出する必要はない。

本件懇親会に係る各支出ごとの違法性は、以下のとおりである。

(一) 会場設定(別紙四の番号8の一部)

本件懇親会の会場を特別の音響照明装置が完備されファッションショーまで可能な本件ホテル内の扇の間とした目的は、ただの見栄・見場である。

(二) 料理及び飲物(別紙四の番号1ないし3及び7)

本件懇親会に係る料理及び飲物の費用は、平成五年一二月六日に本件ホテルで都東京フロンティア推進本部が通産省及び郵政省の担当課長を接待した会合での費用(一人当たり一万二二四三円)よりも高額である上、乾杯にはシャンパンを用いるなど、社会通念を逸脱している。

(三) 音響照明料(別紙四の番号12)

本件懇親会で用いられた音響照明は、開会及び閉会時の挨拶及び料理のイメージアップに用いただけであるから、これに八万円も支出する必要はない。

(四) 和風カウンター(別紙四の番号14)

本件懇親会では、コンパニオンに料理や酒を配膳してもらっているのであるから、普通の屋台(一万八〇〇〇円)では貧弱であるとして特別の和風カウンターを設置し、これに八万円を支出する必要はない。

(五) カラオケ(別紙四の番号15)

本件懇親会の目的は監査委員ら同士の意見交換なのであるから、うち一時間もカラオケを行う必要はない。

(六) ハープ演奏料(別紙四の番号16)

ハープの生演奏は意見交換の邪魔にならないようにされたというが、そうであればそもそも不要なはずであり、ただの見栄のために行われたことが明らかである。

(七) 司会料(別紙四の番号17)

本件懇親会において司会者は、事前にカラオケを歌う監査委員の経歴、趣味等を聞いておき、カラオケの前に紹介するという派手な演出効果を担っており、これに対する公費の支出は社会通念を逸脱している。

(八) コンパニオン(別紙四の番号18)

本件懇親会は着席ビュッフェ方式(フードテーブルに盛り付けられた料理を自由に取り、席で食べるもので、ビュッフェと正餐を折衷させた方式)で行われ、本来配膳は参加者が自分で行うべきものであるが、本件懇親会の参加者は、着物姿のコンパニオンから適宜料理等がなくなったころを見計らって各テーブルに配膳してもらう等、至れり尽くせりの接待を受けている。このように、本件懇親会を華やいだ雰囲気にするためだけにコンパニオンを一五名も雇うことは、明らかに社会通念を逸脱している。

以上のように、本件懇親会に係る各支出はいずれも違法であり、そのことは、被告両名が、カラオケ等の支出を会場使用料の中に含める等の経理操作を行い、本件ホテルに内容虚偽の請求書を作らせていたことからも明らかである。

3 他県職員の宿泊に係る支出の違法性

各県からの出席者は各県から出張旅費として宿泊料を受け取っているのであるから、参加者が各自でその実費を支払うのが当然であるし、現に第四六回全都道府県監査委員協議会連合会定例地区代表会議では、宿泊料は参加者各自の負担とされ、開催県である福岡県の負担はなかったのであって、本件協議会でもかかる方式を採用すべきであった。仮に、被告両名が幹事役として宿泊施設を手配するとしても、参加者から預かった範囲内で手配するのが常識であり、本件協議会におけるように最高級の本件ホテルを準備して差額を公費で負担するのは実質的には利益供与と異なることはなく、地方財政法四条等に違反し、社会通念を逸脱している。

また、会議に要する費用である分担金の一部を都が負担する必要があるとしても、参加各県の宿泊料は右にいう分担金には含まれないから、都がその不足分を負担する理由はない。

したがって、他県職員の宿泊に係る支出は違法である。

4 視察に係る支出の違法性

本件協議会における視察は、監査業務や意見交換に全く関係のない物見遊山であり、ただのパーティーにすぎなかった本件懇親会の延長としての接待である。しかも、埼玉県からの参加者に対する日当に半額調整がないことからみても、船の科学館における昼食代は参加者各自がその日当から負担すべきものであって、都が公費で賄うべき性格のものではない。

したがって、視察に係る支出は違法である。

5 本件記念品に係る支出の違法性

本件記念品の交付は本件協議会とは全く関係のない単なる「おみやげ」であり、参加者に対する利益供与であるから、これに対する公費の支出は地方財政法四条等に違反している。また、本件記念品がリサイクル事業の宣伝のためであるとしても、知事部局中の右事業の所管部門がその費用を支出すればよいのであるから、監査事務局からの支出を正当化する根拠とはならない。

したがって、本件記念品に係る支出は違法である。

6 被告両名の故意・重過失等

都は、いわゆるバブル崩壊後は財政が逼迫しており、昼休みの電気の消灯等で全庁的に経費の節約をしていたのであって、事務事業を監査すべき立場にある被告両名が本件協議会を前記1ないし5のように行ったことは故意又は重過失に該当するから、これによって生じた損害を都に賠償すべきである。

二  被告らの主張

1 局長会及び委員協議会に係る支出の適法性

委員協議会に係る会場の選定に当たっては、<1> 各県の出席者及び来賓の交通の利便性を有していること、<2> この種会議の設営に精通していること、<3> 適切な会議室及び宿泊施設を保有していること、<4> 都庁舎との連絡が容易にできるところであることなどについて検討した結果、本件ホテルが最適であると判断した。そして、本件協議会の日程が視察を含めて二日間であることから、会議場と宿泊場所が同一の方が各県の出席者にとっても便利であることを考慮し、局長会及び委員協議会とも本件ホテルの会場を使用することとした。これに対し、都庁舎の特別会議室は、机が固定されているため委員協議会の会議場としては不適当と判断した(本件ホテルのコンコードの間において開催された委員協議会の配置は別紙六のとおりである。)。もっとも、都庁舎と本件ホテルが至近距離にあることからすれば、局長会についてまで会場を本件ホテルとした点は適当ではなかったが、違法とまではいえない(別紙四の番号8の一部)。

そして、委員協議会においては、研究テーマの「平成六年度の監査計画について」、「住民監査請求を受け付ける場合の窓口での対応の仕方及び要件審査の方法について」及びその他の「公共工事の入札・契約手続に対する各都県での取組み状況について」であり、これらの議題について一時間半にわたり有意義な意見交換が行われたのである。

また、コンコードの間での委員協議会が終了した後、同会場において参加者の記念撮影を行ったが、右記念撮影は、関東甲信越監査委員協議会の開催ごとに出席者の一部が変わるために従来から行ってきたものであり、この種会議において一般的にみられることである。もっとも、右記念撮影に係る費用は、本来(節)役務費又は(節)委託料に予算流用すべきであるのに、これを怠って(節)使用料及賃借料に含めて支出した点は事務処理上適切ではなかったが、このことが支出金額に影響を与えるものではない(別紙四の番号21)。

したがって、局長会及び委員協議会に係る支出に違法と評価されるべき点はない。

2 本件懇親会に係る支出の適法性

懇親会は、従前より関東甲信越監査委員協議会の一環として実施してきたものであるが、会議の場とは別に、日常各県で抱えている懸案事項等について自由な意見の交換を行うなど、各県相互の交流を図ることを目的として設けられており、本件懇親会においても、これまでの開催内容に準じ、各県の出席者を考慮してそれなりの体裁と内容とをもって開催したものであり、単なる接待や慰労を目的としたものではない。

本件懇親会に係る各支出ごとの支出根拠は、以下のとおりである。

(一) 会場設定(別紙四の番号8の一部)

本件懇親会の会場は本件ホテルの扇の間とし、その目的に照らし、配置した一〇テーブル(一テーブル八人)に原則として各県の出席者が一名ごとに着席するようにし、各県の出席者間において忌憚のない意見交換ができるよう配慮した。

(二) 料理及び飲物(別紙四の番号1ないし3及び7)

料理及び飲物は、本件ホテルと協議した上、この種会議で通常飲食されているものを注文した。なお、本件ホテルにおいて見積例として発行されている「ご宴会お見積例」中の宴会例は、基本的なものとして最低限必要なものを例示したものにすぎない。

(三) 音響照明料(別紙四の番号12)

音響照明料は、扇の間で使用したものであり、同会場における基本的料金である。音響照明は、主として料理のイメージアップに用いたが、本件懇親会開催に際しての開催者の挨拶、地区代表県の挨拶及び次期開催県の挨拶等の都度利用した。

(四) 和風カウンター(別紙四の番号14)

和風カウンターは、本件ホテルと相談した上、寿司・日本料理の部分に適当と思われるものを設置した。

(五) カラオケ(別紙四の番号15)

カラオケは、最近の各県で実施した懇親会においても取り入れられていたことから採用したが、意見交換を妨げないようにするため、各県一人、一曲に限定して実施し、その開始時刻も本件懇親会の目的が概ね達せられた午後七時一〇分ころであった。

(六) ハープ演奏料(別紙四の番号16)

ハープは、本件懇親会の開始時から一台を約一時間の間静かに演奏した。これまで各県で実施した懇親会では、アトラクションとして郷土芸能等多額の費用をかけているものが行われていたが、意見交換の妨げにならないこと及び経費の面を考慮した。

(七) 司会料(別紙四の番号17)

司会者は、各県で実施した懇親会において取り入れられていたこともあり、本件ホテルからも、この種懇親会には司会者を入れるのが通例であるとのアドバイスを受けたために採用した。

(八) コンパニオン(別紙四の番号18)

コンパニオンは、会場の設営上、料理を会場の周辺に配膳せざるを得ず、また、自由な意見交換という本件懇親会の目的からして、料理等を各テーブルに配膳サービスすることが必要なために採用した。また、その人数については、通常のこの種会議における人数について、本件ホテルのアドバイスを受けて決めたものである。

以上のように、本件懇親会に係る各支出には合理性がある。もっとも、右各支出のうちカラオケセット料金、ハープ演奏料、司会料及びコンパニオンに係る費用は本来(節)役務費又は(節)委託料に予算流用すべきであるのに、これを怠って前三者について(節)使用料及賃借料に、後一者について(節)一般需用費に含めて支出した点は事務処理上適切ではなかったが、このことが支出金額に影響を与えるものではない。

したがって、本件懇親会に係る各支出に違法はない。

3 他県職員の宿泊に係る支出の適法性

関東甲信越監査委員協議会会則は、会議に要する費用その他本会議の経費は各都県の分担とするとし、分担金の額は会議の議決を経て毎年度定めるとしていたが、一都九県の輪番制で開催していることから、分担金の額はここ一〇年程度据え置かれており、構成団体である各都県の合意により、分担金で経費を補填できないときは、その不足額について主催都県が負担することとして処理されてきている。そして、都は、本件懇親会において、各県の分担金を宿泊費に充当することとしたため、宿泊費の合計額一二八万四〇〇〇円から分担金八〇万円を控除した残額四八万四〇〇〇円を負担したものであって、右支出には合理性がある。

もっとも、右負担額は本来(節)負担金及交付金に予算流用すべきであるのに、これを怠って(節)一般需用費に含めて支出した点は事務処理上適切ではなかったが、違法とまではいえない。

したがって、他県職員の宿泊に係る支出は適法である。

4 視察に係る支出の適法性

関東甲信越監査委員協議会は、従来から二日目の午前中に視察を実施してきているが、視察地は、各県とも、監査業務に関連する事業等で、監査業務に有益となり、各県の特徴ある場所を選定して行っている。本件協議会においても、限られた時間内で意義ある視察とするため、都で行っている主要な事業であった臨海副都心開発事業を視察地に選定し、海上及び高所から視察を行ったものであって、各県の出席者からも相応の評価を得ている。

したがって、視察に係る支出は合理性を有し、適法である。

5 本件記念品に係る支出の適法性

関東甲信越監査委員協議会では、従来から主催都県が地場産業などの製品を宣伝の一環として記念品として提供してきている。しかし、都では地場産業の製品として適当なものがないため、下水道局が全国に先駆けて下水汚泥の再利用技術として開発した本件記念品を、都の事業及び資源再利用の宣伝として意義があると判断して提供したものである。したがって、本件記念品が社会一般にいう「おみやげ」であると解する余地はないから、本件記念品に係る支出は合理性を有し、適法である。

第四  争点に対する判断

一  普通地方公共団体は、その事務を処理するために必要な経費を支弁するものであるから(地方自治法二三二条一項)、具体的な支出を普通地方公共団体の事務処理のための経費と解することができない場合、当該支出は違法というべきである。また、普通地方公共団体の事務を処理するに当たっては、最少の経費で最大の効果を上げるようにしなければならず(同法二条一三項)、経費はその達成するために必要かつ最少の限度を超えて支出してはならないとされている(地方財政法四条一項)から、普通地方公共団体の事務処理経費に該当する場合であっても、右規定に抵触する各個の経費の支出は違法と評価され得るものというべきである。もっとも、予算の執行において、事務の目的に従った最大効果を達成するために何をもって必要かつ最少の限度というべきかは、当該事務の目的、当該経費の額のみならず、予算執行時における経済状態、国民の消費及び生活の水準等の諸事情の下において、社会通念に従って決定されるべきものであるから、第一次的には、予算の執行権限を有する財務会計職員の社会的、政策的又は経済的見地からする裁量に委ねられているものと解するほかはない。したがって、具体的な支出が当該事務の目的、効果との均衡を欠いているときは不当の評価に止まるものであるとしても、具体的な支出が当該事務の目的、効果と関連せず、又は社会通念に照らして目的、効果との均衡を著しく欠き、予算の執行権限を有する財務会計職員に与えられた前記裁量を逸脱してされたものと認められるときは、違法というべきである。

ところで、監査委員は、普通地方公共団体の財務に関する事務の執行及び当該団体の経営に係る事務の管理又は必要があると認めるときは、その他の事務執行を監査する権限を有し(地方自治法一九九条一、二項)、普通地方公共団体の事務の拡充とともにその役割の重要性も高まってきている。したがって、地方公共団体の監査委員の研さん、研修は当該普通地方公共団体の監査事務に付随する事務というべきであり、そのための費用も右事務処理経費ということができる。また、複数の普通地方公共団体の監査委員が共通の問題を討論し、率直に意見を交換し合い、又は普通地方公共団体の事務に関する見識を広めることは右研さん、研修の有効な方法ということができるから、複数の普通地方公共団体の監査委員の右討論、意見交換等の場を設置、運営することに要する経費も、監査事務を円滑に処理するための経費ということができる。

そこで、以下では、本件協議会に係る各支出が、右にいう討論、意見交換又は見識の養成に該当するか否か、これに該当するとした場合の、目的、効果との関連性及び均衡を著しく欠いているか否かについて検討することとする。

二  局長会及び委員協議会に係る支出について

1 《証拠略》並びに既に摘示した事実を総合すれば、本件協議会に係る局長会及び委員協議会については、以下の事実を認めることができる。

(一) 会場の選定

委員協議会及び局長会の会場について、都監査事務局は、本件協議会の日程が二日間にわたることから会議場と宿泊所が同一箇所であることが望ましいと考え、これを前提に本件ホテルを含む近隣のホテルを比較した。そして、本件協議会にふさわしい会場を有していること、出席者全員が宿泊できる部屋数を確保していること、交通の利便性に富んでいること、この種会議等の設営に精通していること及び都庁舎に比較的近いところにあることなどの面から検討した結果、本件ホテルが最適であると判断した。

もっとも、委員協議会については、その規模が八〇名前後であることから、都庁舎内の会議室で開催することが可能かどうかも検討され、定員の面からは都第一庁舎の四二階にある特別会議室(定員八二名。なお、その配置は、別紙五の図面のとおりである。)が使用可能と思われたが、同会議室は机がボルトで床に固定されて配置されており、委員協議会の運営に適した座席の配置ができないとして、使用するには適切ではないと考え、本件ホテル内のコンコードの間(B)とした(同会場は、奥行約二三メートル、幅約一九メートル、面積四三六平方メートルであり、最大五〇〇名程度の収容が可能で、平成三年一〇月ころの平日半日当たりの表示料金は九六万円であった。)。そして、会議場の正面に「第九三回関東甲信越監査委員協議会」と記された看板及び会議次第が、正面の演壇には卓上盛花が、各都県の座席には席札がそれぞれ備えられた。

これに対し、局長会の会場については、委員協議会の会場を本件ホテル内に決定した以上、会場の移動は出席者に不便を与えることになるとの考慮から、都庁舎内の会議室の使用は検討せず、本件ホテル内のコメットの間に決定した(同会場は、面積が九八平方メートルで、平成三年一〇月ころの平日半日当たりの表示料金は二四万円であった。)。もっとも、現実には、本件協議会開催当時において、都庁舎内には、局長会会場として使用可能な会議室の一部には空室も存在していた。

なお、本件懇親会等を含め、本件協議会で使用した本件ホテル四室の料金については、使用人数及び室数が多かったことなどから本件ホテルとの交渉で合計五〇万円に割引となった。

(二) 会議の内容等

局長会は、事務局職員二四名が参加し、主として委員協議会の論点整理が行われ、会議終了後同会場で昼食として幕の内弁当(各三〇〇〇円)が供された。

委員協議会は、監査委員三六名、事務局職員四一名の合計七七名が参加し、事前に都が参加各県に提案していた研究テーマ二題を中心に、一時間半強の討論が行われた(同協議会での議事等の内容は、別紙七のとおりである。)。

研究テーマについては、都が提案理由及び都の状況についての説明を行い、その後各県の状況について説明してもらい、各県の説明終了後、質疑応答を行った。各県の状況については、各県から予め送付されていたとりまとめ結果を右協議会の場で各県に配付し、これに基いて討論を行ったが、特段議事録等は作成しなかった。「平成六年度の監査計画について」では、主として、平成三年の地方自治法改正による行政監査制度の導入が年間の監査計画等にどのように影響しているのかについて、「住民監査請求を受け付ける場合の窓口での対応の仕方及び要件審査の方法について」では、近年増加傾向にある住民監査請求に関し、各都県が請求人に対して制度の内容をどのように周知させているかや要件審査の具体的な方法等について、それぞれ各県の意見等を求めたものである。また、これらの研究テーマに加え、平成五年一〇月に自治省から公共事業の入札及び契約手続について監査の徹底を図るように通達が出されたことを受けて、各県の取組状況についての意見聴取も行われた。

なお、局長会では会議開始前にコーヒー(各五〇〇円)が、委員協議会では会議途中にコーヒー(前同)とクッキー(各二〇〇円)がそれぞれ参加者に供された。

また、委員協議会の終了後に、コンコードの間(B)で参加者全員による記念撮影が行われた。

2 以上によれば、委員協議会及びその準備のために催された局長会においては、議事録こそ作成されなかったものの、いずれも事前の書面による意見聴取等の結果をふまえて討議がされたものと推認することができ、相互研さん、意見交換の場として開催、運営されたものと認められ、いわゆる裏金作りのために監査委員の意見交換等の形式を用いたにすぎない旨の原告主張を採用することはできない。

そこで、委員協議会の会場を都庁舎内の特別会議室とせずにコンコードの間(B)とした点について検討するに、委員協議会に先だって各都県の事務局職員による論点整理のための局長会が行われたこと、研究テーマも平成六年度の監査計画、請求人に対する窓口の対応の仕方及び住民監査請求に係る要件審査の方法といったいずれも監査委員以上に監査事務局に関わりが深いと推認されるものから選ばれていること、監査委員は常勤とは限らず(地方自治法一八〇条の五第五項、一九六条四項参照)、必ずしも監査事務手続の詳細にまで精通しているとは限らないことからいって、委員協議会の座席につき、各都県の監査委員席の背後にこれに対応する監査事務局員席を配置できるようにすることは適正な配慮ということができ、都庁舎内の特別会議室での開催が不可能ではないとしても、より適切な会場を選定することには合理性が認められる。また、コンコードの間(B)が委員協議会の参加者数に比していささか広きに過ぎ、設備的にも監査委員の相互研さん、意見交換という実務的な会議の目的との対比において華美なきらいがあることは否めないものの、その借上げに要した現実の費用が交渉の結果本件ホテルにおける表示料金よりも相当低額となったこと、委員協議会が本件協議会における中核的行事であることに照らせば、委員協議会の会場としてコンコードの間(B)を借り上げ、これに公金を支出したことには、社会通念を逸脱した違法があるとは解し得ない。

これに対し、局長会の会場は、その規模や委員協議会のための論点整理という強度の実務的性格からみて、当時空室がみられた都庁舎内の会議室を使用することを考慮することすらしなかった点は不適切といわざるを得ず、都庁舎内の会議室を使用する方がより適当であったというべきである。しかし、委員協議会を本件ホテル内と選定した以上、近接しているとはいえ都庁舎と本件ホテルとの間を移動させる不便を参加者にかけないようにする配慮には一応の合理性が認められるし、本件ホテル内の会場に係る借上料についても使用した会場数に応じて減額され、コメットの間に係る借上料も表示料金よりも相当大幅に減額されたものと認められることからして、局長会の会場として同室を借り上げたことについても、当、不当の問題はあるとしても、社会通念を逸脱した違法な財務会計上の行為に当たるとまで解することは困難である。

また、委員協議会及び局長会の合間に出された昼食及びコーヒー等も、その必要性及び価格に照らして会議等に付随する措置ということができ、社会通念を逸脱した饗応と評価する余地はない(昼食が供された他県職員については日当の減額等の措置が考えられるとしても、それは各県の財務会計行為に係る問題であるし、既に摘示したように、都の職員については、本件協議会当日の旅費は日当を含めて都に返還されている。)。さらに、委員協議会終了後の記念撮影についても、本件協議会の目的が監査委員制度を運用していく上で各都県が相互に親睦を深めて将来にわたる意見交換を密にしていくという点にあることからすれば、その目的に資するものと認めることができるし、その価格(参加者一人当たり一五〇〇円)に照らしても、これに対する公金の支出が右目的を達するにつき社会通念を逸脱した違法な公金の支出であるとはいえない。なお、《証拠略》によれば、記念撮影に係る費用は、会計処理上は(節)役務費又は(節)委託料に予算流用すべきなのに、(節)使用料及賃借料に含めて支出されたことが認められるが、予算流用の措置を講じなかったことが会計事務処理上違法の評価を受けるとしても、(節)間における流用である以上本来は適法に行えたものというべきことからみても(地方自治法二一六条、二二〇条二項参照)、右違法は本件ホテルに対する支出負担行為をも無効にする程の瑕疵とは解し得ないから、結局右会計処理上の違法によっても都には損害が生じていないものというべきである。

また、委員協議会正面に備えられた吊り看板については、その金額に照らして会議の目的及び効果との均衡を欠くものとの疑問がないではないが、民間企業や団体を含めたこの種の会議でもかかる看板があることも異例とまではいえないであろうし、委員協議会が本件協議会における中核的行事であることにかんがみれば、これに対する公金の支出も当、不当の問題はあるとしても、社会通念を逸脱した違法があるとまではいえない。

3 したがって、被告らによる局長会及び委員協議会に係る公金の支出には記念撮影料につき予算流用の措置を講じなかった点を除けば違法はなく、右流用措置についてもその違法によって都に損害が生じた事実は認めることができない。

三  本件懇親会に係る支出について

1 普通地方公共団体の執行機関が、当該団体の事務を遂行し対外的折衝や意見交換等を行う過程において、社会通念上儀礼の範囲に止まる程度の接遇を行うことは、当該団体も社会的実体を有するものとして活動している以上、右事務に随伴するものとして許容されるべきである。しかし、それが公的存在である普通地方公共団体により公費によって行われることにかんがみれば、意見交換等をする際に行われた接遇であっても、それが社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものである場合には、右接遇は当該団体の事務に当然伴うものとはいえず、これに要した費用を公金により支出することは許されないものというべきである(最高裁昭和六一年(行ツ)第一四四号、平成元年九月五日第三小法廷判決・判例時報一三三七号四三頁参照)。また、接遇が当該普通地方公共団体が遂行する事務に当然伴うものと認められる場合であっても、当該接遇に要した各費目の支出ごとに、接遇が行われるに至った経緯、当該接遇に要した費用の総額及び当該接遇の態様等を検討し、当該事務の目的、効果と関連せず、又は右目的、効果との均衡を著しく欠き、裁量権の逸脱が認められる場合には、右支出は違法というべきである。

2 《証拠略》並びに既に摘示した事実を総合すれば、本件懇親会については、以下の事実を認めることができる。

(一) 本件懇親会の趣旨及び会場の設営等について

本件懇親会(午後六時から同八時ころまで開かれ、会場使用料を除いたその費用の総額は消費税・特別地方消費税込みで二二六万七八八〇円、参加者一人当たりでは約二万八〇〇〇円である。)は、委員協議会に引き続いて、これら公式討議の場とは別に、これらの場で積み残された問題点や日常各県で抱えている懸案事項等について自由な意見の交換を行うなど、各県相互の交流を図るために設けられたものである。右目的に適うように、会場設営については、本件ホテル内の扇の間(奥行約二〇メートル、幅約一六メートル、面積三一〇平方メートルであり、立食形式の場合には最大三〇〇名の収容が可能で、平成三年一〇月ころの平日二時間当たりの飲食付きの表示料金は八万円であった。)に、意見交換がしやすいよう一テーブルに八名ずつ、合計一〇テーブルを配置することとし、原則として一テーブルに各都県の出席者が一名ずつ着席するようにした。料理及び飲物については、各テーブルの上ではなく、会場の周辺部分にまとめて配置した。本件懇親会の内容については、関東甲信越監査委員協議会のこれまでの開催経過を踏まえ、各都県からの出席者を考慮してそれなりの体裁を有するように留意し(本件協議会に参加した監査委員のうちいわゆる有識者の枠(地方自治法一九六条一項参照)から選任された者の中には普通地方公共団体の局長経験者等が多く、概ね六〇歳以上である。)、具体的には、通常この種の懇親会がどの程度の内容であるかにつき本件ホテル側からアドバイスを受け、主にこれを参考にして予算の枠内で決定した。

(二) 料理及び飲物について

料理は、西洋料理及び日本料理を出席人数八一人に対して各四〇人分ずつ、寿司については八〇人分を配膳した。飲物については、ビール、日本酒、ウイスキー及びミネラルウォーター等を用意し、実費計上ではなく、予定数量を出してもらう形の契約をした。参加者一人当たりの代金は料理が約一万〇八六四円、飲物が約四六一九円であり(いずれも消費税相当額を除いた額)、これを本件ホテルの平成六年八月現在の見積例と比較すると、飲物(一人当たり単価二五〇〇円)については二倍近い額となっているが、料理(一人当たり単価一万円又は一万二〇〇〇円)については見積例の中間となる。

(三) 音響照明料について

音響照明は、主に料理のイメージアップのために用いたほか、開会及び閉会時の挨拶のためにも一部使用した。本件懇親会で支出された音響照明料は、音響照明を使用する際の基本料金であるが、扇の間を使用する際に必要的に掛かる費用ではない。

(四) 和風カウンターについて

和風カウンターは、日本料理及び寿司の配膳場所に設置したもので、既設のものでは小さく、見場も余りよくないとの判断から、より大きいものを特別に発注した。

(五) カラオケについて

カラオケは、本件協議会の前から数次にわたる関東甲信越監査委員協議会において行われてきたことから、扇の間にあるカラオケセットを使用して本件懇親会でも行った。もっとも、本件懇親会の趣旨が主に意見交換にあるところから、一県一人で一曲に限定し、午後七時一〇分ころから交代の時間等も含めて約四〇分間にわたり、会場の隅の方で行った。

(六) ハープ演奏料について

関東甲信越監査委員協議会における懇親会では、従来から太鼓や舞踊等の郷土芸能を取り入れていたが、これらと異なって会話の邪魔にならず、また費用もこれら程は要しないという見地から本件懇親会ではハープの演奏を行うこととし、会場の入り口付近において一台を午後五時五五分ころから一時間程度演奏した。なお、扇の間には、音響装置としてオープンデッキ及びカセットデッキが各二台設置されているほか、CDプレーヤー等も備えられていた。

(七) 司会料について

主としてカラオケに際し、事前に歌う者の経歴、趣味等を聞いておき、歌が始まる前にそれらを紹介するために、専門の司会者が起用された。なお、右起用に際しては、従来の関東甲信越監査委員協議会の一部にも取り入れていた経緯や本件ホテルからの助言も参考にされた。

(八) コンパニオンについて

コンパニオン(和装。ただし、洋装でも料金は同額である。)は、(一)記載のように料理及び飲物を配置したことから、参加者各人がこれらを取りに行くとすれば意見交換に支障が出るとの考慮に基づき、各テーブルへの配膳の目的で採用された。人数については、本件ホテルと相談の結果、一テーブル当たり一・五名が適当であるとして決定された。コンパニオンは、各テーブルの周辺に立ち、テーブルに料理や飲物がなくなった際に適宜参加者の注文を聞くなどしてこれらを各テーブルに運搬した。

3 以上によれば、本件懇親会は、毎年二回開催される関東甲信越監査委員協議会の一環として、各都県の監査委員及び監査事務局職員が相互に胸襟を開いて率直な意見交換をすることを主たる目的とするものということができる。そして、監査委員及び監査事務局同士の相互研さんが普通地方公共団体の事務を適切に遂行していく上で重要と認められることは既に説示したとおりであるし、前示のような研究テーマを中心に討議が行われた委員協議会に引き続いて開催された経緯やその実施時間帯、本件懇親会の態様(和装のコンパニオンによるサービスがあるとはいっても、その内容は料理の運搬など通常のウェイトレスと大差ないものと認められる。)に照らせば、本件懇親会自体は、監査事務を円滑に処理するための都の事務に付随するものということができる。

そこで、各費目ごとに予算執行上の裁量逸脱の有無を検討することとする。

(一) 料理については、時間帯に照らして本件懇親会が当然に参加者の夕食を兼ねるものと認められることからしてもこれを供することには合理性があるし、一人当たりの費用も一万一〇〇〇円以内であることからすれば、意見交換という目的、効果との均衡からは疑問なしとしないとしても、右均衡を著しく欠き、裁量の範囲を逸脱していると解することはできない。また、飲物についても、実費計上の方式を取らなかったことなどもあって見積例よりも相当高額となってはいるが、率直な意見交換という本件懇親会の主要な目的及び参加者の経歴等に照らせば、なお社会的にみて不相当に高額であるとまではいえない。

(二) しかし、音響照明、和風カウンター及び司会料は、監査事務担当者の率直な意見交換という本件懇親会の目的に照らし、一般的に必要かつ有効なものと認めるには足りず、本件懇親会の体裁を過度に重視する余り、徒に演出効果を重視した結果としての出費と評価されてもやむを得ず、社会通念上本件懇親会の右目的及び効果との均衡を著しく欠くものというべく、それに要した費用も社会通念に照らして無視できない程度に高額である。また、カラオケは、今日においては一定の社交的役割を果たすものとして客観的にも認知されていることは否定できないが、その性質上むしろ参加者間の円滑な意見交換を妨げるおそれがあるといえ、本件懇親会に取り入れる必要性があるかは疑問であるし、約四〇分間で八万円という費用は社会通念に照らしても明らかに高額である。さらに、ハープの演奏についても、背景音楽の存在と本件懇親会の目的促進との合理的関連は容易にはみいだしがたい上、扇の間にはCDプレーヤー等の音響装置等も備えられていることに照らせば、これらによらずに一時間につき一二万円もの公費を支出して生演奏を行わせるまでの必要性及び有効性は認められない。そして、コンパニオンについても、参加者が自ら料理等を席に運搬することで参加者相互の懇親に悪影響を及ぼすとも解しがたいから、その実際上の必要性には疑問を差し挟まざるを得ないし、本件懇親会にいわば華を添える効果があるとしても、監査委員の率直な意見交換という本件会議の目的に照らして、三〇万円の公費を支出する有効性を肯定することは困難であり、公的存在としての普通地方公共団体として、事務の目的、効果との均衡を著しく欠くものといわざるを得ない。

よって、本件ホテルとの契約のうち、音響照明料、和風カウンター、カラオケ、ハープ演奏料、司会料及びコンパニオンに係る部分(消費税・特別地方消費税を含めて合計額八〇万五六〇〇円)には、地方財政法四条一項の趣旨に照らし、社会通念上予算執行職員に認められた裁量を逸脱した違法があるというべきである。

4 これに対し、被告らは、本件懇親会の内容は本件ホテルとも相談して決定した旨主張し、前示のようにその旨の事実は認められるが、本件ホテルが契約の相手方であり、中立的な第三者とはいえないことにかんがみれば、本件ホテルがいかに同種懇親会の設営に精通していたとしても、これと相談して本件懇親会の具体的内容を決したことが違法性を治癒するものではないことは明らかである。

また、被告らは、本件協議会に先立つ関東甲信越監査委員協議会においても、本件懇親会と同等かそれ以上に華美な内容を有する懇親会が慣行として行われてきており、本件懇親会もそれに倣ったものである旨主張する。しかし、《証拠略》によれば、同じく本件ホテルで昭和六三年度に開催された第八三回関東甲信越監査委員協議会に係る懇親会の費用は、料理が一人当たり約一万円と本件懇親会とほぼ同額であり、その余の費用は大幅に低額であった(ホステスが参加者七〇名に対して八名(合計一四万四〇〇〇円)、屋台も通常のものが二台(合計三万円)であり、余興といえるものはエレクトーン演奏(特別奉仕価格で四万五〇〇〇円)のみである。)ものと認められることからすると、関東甲信越監査委員協議会の懇親会が被告ら主張のような内容を有するに至ったとしても、それはせいぜいここ二、三年のことであったと推認される。その上、そもそも、同協議会において華美な内容の懇親会が半ば慣行化していたとしても、国民経済の動向、普通地方公共団体の財政事情又は住民意識の変化によって社会通念も変わるものである上、社会通念の規範的性格に照らせば、右慣行の存在が同種の公金支出を正当化するものでもない。

したがって、被告らの右主張はいずれも採用することができない。

5 以上によれば、予算流用措置の懈怠等の点について判断するまでもなく、本件ホテルとの契約を行った被告見山は、本件ホテルとも相談して、本件懇親会の内容を認識した上で右支出負担行為を行ったものということになるから、その中の違法な部分につき地方自治法二四三条の二第一項所定の賠償責任を負うものというべきである。

しかし、本件ホテルとの契約には、その全体が接待それ自体を目的としたものとみられてもやむを得ないといったような重大な違法は認められないことは既に説示したとおりであるから、少なくとも私法上は有効ということができる。そうすると、都には本件ホテルに対して右契約どおりの債務を履行する義務を負うことになるから、その履行のために支出命令をした被告鹿島及びこれを受けて支出行為を行った職員には、同項上の責任は生じないものというべきである。

四  他県職員の宿泊に係る支出について

1 《証拠略》によれば、関東甲信越監査委員協議会会則は、会議に要する費用その他本会の経費は各都県の分担によるとし(七条)、分担金の額は会議の議決を経て毎年定めるとしている(八条)こと、分担金の額はここ一〇年程度変わっておらず、監査委員及び事務局長が一人当たり一万五〇〇〇円、その他の職員が一万円であること、そのため開催費用には不足額が生じ得るが、右不足額は主催都県が負担することが総意となっていたことが認められる。そして、関東甲信越監査委員協議会が現在のようなスケジュールに固定されていることは既に摘示したとおりであって、その開催に宿泊経費を要することは参加各都県においても当然に予定しているものと解されるから、主催都県が分担金を宿泊経費に充当した上、それによって不足する額を自ら支出することも、その額が社会通念上分担金の額に比して著しく高額である等の事情がない限り、協議会の開催という普通地方公共団体の事務に付随する支出と解することができる。そして、都心部に宿泊施設を用意すべき場合にその費用が参加者の予定負担額を超えるときは、開催都県においてこれを補助することも協議会の開催目的に合致するものというべきであり、本件協議会において、都職員を含めた宿泊経費の合計一二八万四〇〇〇円のうち、八〇万円を控除した四八万四〇〇〇円を公費で支出することについても、社会通念上不相当に高額な他県への便宜供与ということもできない。

2 これに対し、原告は、宿泊料は参加者各自の負担とすべきであると主張する。しかし、右協議会の開催主体は関係普通地方公共団体の持ち回りによる旨合意されていること及びかかる会議の開催が普通地方公共団体の事務にとっても意味があることは既に認定したところであり、右協議会の開催自体は都の監査事務に付随する事務ということができるのである。また、参加者の開催地への出張及び同地での宿泊は公務である上、宿泊先は開催主体である都において決定するものであることからすれば、相対的に高額である都心の宿泊施設の利用費の一部を負担することも、相当な範囲内では右事務処理経費と解することができ、本件における一部負担をもって不相当といえないことは、既に説示したとおりである。

なお、第二の二5(三)記載の電話、冷蔵庫内飲料等の費用一四万八六三五円は既に都に返還されていることは既に摘示したとおりであるから、本件訴えにおいて被告らが賠償すべき損害には含まれていない。

3 また、弁論の全趣旨によれば、宿泊経費の不足額は、会計処理上は(節)負担金及交付金に予算流用すべきなのに、(節)一般需用費に含めて支出されたことが認められるが、記念撮影に関して説示したところと同じく、予算流用の措置を講じなかったことが会計事務処理上違法の評価を受けるとしても、(節)間における流用である以上本来は適法に行えたことからみて、右違法は本件ホテルに対する支出負担行為をも無効にする程の瑕疵とはいえず、結局右会計処理上の違法によっても都には損害が生じていないものというべきである。

4 したがって、被告らによる他県職員の宿泊に係る公金の支出には予算流用の措置を講じなかった点を除けば違法はなく、右流用措置についてもその違法によって都に損害が生じた事実は認めることができない。

五  視察及び記念品に係る支出について

1 《証拠略》によれば、本件協議会の二日目の日程として、参加者は新東京丸で海上から東京湾沿岸の開発状況について乗務員の説明を受けながら視察した後、臨海部を一望できる船の科学館の展望室から世界都市博覧会会場予定地の建設現場を中心として視察したこと、関東甲信越監査委員協議会では、主催都県の特徴ある事業等を紹介することなどを目的として従来から視察を実施していること、本件協議会においては、臨海部のように広域的開発を行っている地域が全国でも少なく、また当時都は臨海部で開催される予定であった世界都市博覧会の周知に力を入れていたことなどから右視察先が選定されたことが認められる。

右によれば、視察の第一義的な目的は、我が国有数の大規模埋立地開発である臨海副都心建設事業の大要を参加者に把握してもらうとともに、当時都が計画していた世界都市博覧会の広報にあったものと認めることができるし、他の普通地方公共団体の監査事務を担当する者に、開催主体たる普通地方公共団体が社会的に著名であったり、当該地方での典型的な公共事業についての見聞の機会を与えることは、本件協議会に付随する接遇の方法として不当なものということはできず、都が推進する右事業及び当時その一環として計画されていた世界都市博覧会に係る広報活動をこれら参加者に行うことは都の当時の政策目的にも沿うものということができるから、右視察をいわゆる接待旅行の類と同視することは相当ではない。

これに対し、原告は、右視察は本件懇親会の延長としての物見遊山であると主張する。確かに、《証拠略》によれば、本件協議会の開催要領中には海上からの視察につき「東京湾遊覧視察」と記載されていることが認められ、参加者も委員協議会等に比べれば減少していること等に照らすと、右視察が委員協議会等と比べて公式行事としての色彩が薄まっていたであろうことは否定できないが、これらをもって一概に右視察の目的を物見遊山であるとするのは相当ではない。また、既に摘示したように、海上からの視察については直接の費用はかかっておらず、右視察に要した費用はバス二台の借上代、船の科学館の入館料及び同所での昼食代だけであるから、社会通念に照らして不相当に高額な出費と解することもできない。もっとも、《証拠略》によれば昼食にはビールが供されたことが認められるものの、昼食が日程の最後で供されたものであり、金額も参加者一人当たり三〇〇〇円弱に止まっていることに照らせば、その当否はさておき、これをもって右昼食代に係る支出が社会通念を逸脱した出費であると解することは困難である。また、昼食が供されたことによって各県の日当が減額されるか否かは各県の財務会計行為の問題である。

したがって、視察に係る支出については、違法というべき点はない。

2 次いで、《証拠略》によれば、本件記念品は都の下水道局において下水処理によって発生した汚泥の再利用として、下水汚泥を高温で溶融し、ペンダントとして加工したものであること、都では記念品として提供するのに適当な地場産業がなかったことから、都が進める資源のリサイクルに関する広報を兼ねて参加者にこれを提供したものであることが認められる。よって、本件記念品を提供した目的には合理性が認められるし、既に摘示したところによれば、出費の額も社会通念上不相当に高額であるとまではいえない。

これに対し、原告は、本件記念品は単なるおみやげであるとするが、本件記念品の供与がかかる趣旨を含むものであったとしても、社会通念上儀礼の範囲内の出費であれば直ちに違法の評価を受けるわけではないし、本件記念品が著しく高額とはいえないことは既に説示したとおりである。また、原告は、資源の再利用に関する広報であれば担当する知事部局が行えばよいとも主張するが、担当部局の枠を超え、適当な機会を捉えて対外的な広報活動を行うことも社会的実体としての普通地方公共団体の性格に背馳するとはいえないから、原告の右主張は採用できない。

したがって、本件記念品に係る支出についても、これを違法と解することはできない。

六  結論

以上のとおりであるから、原告の請求は被告見山に対して金八〇万五六〇〇円及びこれに対する平成七年三月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担については、第二の二5記載の本件訴訟の経緯に照らし、その二分の一を被告らに、その余を原告にそれぞれ負担させるのが相当であるから、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九〇条、九二条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富越和厚)

裁判官 竹野下喜彦は退官につき、裁判官 岡田幸人は填補につき、それぞれ署名捺印できない。

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